メカブロあとがき+おまけ

エンドロール絵解説はこちら→https://suzumotimoti.amebaownd.com/posts/48402236


やりきった! 楽しかった!! ありがとうございました!!!

 こんにちは。作者のすずもちです。とにもかくにも、ここまでご視聴いただき誠にありがとうございます。ほんとやりきった感あります。ほぼぴったり2年間(休止期間も入れれば3年間)、一つの作品を作り続けるということをしていましたが、この時間は大変な時間でもありとてつもなく楽しい時間でもありました。少しずつ自分の妄想が形になっていって一つの終わりを迎えるなんて経験、そうそうできるものでは……なくはないかもしれませんが、私自身にとっては非常に貴重な経験及び成長になったと思います。毎回「あと何枚絵描けばいいんだよ! 誰だよここに絵入れるって指定した奴! 誰だよこんな描くの大変なキャラデザにした奴! お前だよ! やるしかねぇ!」と四苦八苦しつつ、出来上がっていく動画編集画面を見てにやにやしつつ完成まで持っていくということをしておりました。人間、気力さえあればある程度のことは成し遂げられるんだなって思います。そういう点ではこの作品が私にとっての希望だったと言えるかもしれませんね。傍から見返せば「なんだ、これが2年間もかけて作ったもの?」と思えるような出来かもしれません。私から見たって反省点改善点がたくさんあります。それでも、私の中では大好きな作品です。

 薔薇兵たちを始めとする彼ら彼女らの人生の一幕を覗き込むひとときは途方もなく幸せな時間でした。私がカメラを向けていない間も、メカブロの登場人物たちは生きているんだよなって、今でもなんだかそんなことを思っています。寮で夜更かししてお喋りする訓練生たち、休日に一緒にお出かけする隊長たち、背中合わせで毒花に立ち向かう庭師たち、隷を案じて憂い顔を浮かべる神々、きっとカメラの外ではそんな光景が繰り広げられていたのではないでしょうか。今でも彼ら彼女らはセレブレストラとカーセルベレスあるいは神の世界で泣いて笑って生きているはず。私はそのすべてを映すことはできないけれど、ちょっとだけでもみんなの人生を覗かせてくれたことをありがたく思います。みんなありがとう。そしてお疲れ様でした。

 振り返って考えると、メカブロという作品に一番影響を受けたのは作者だと思うんです。作者にとってメカブロってやりたい放題の性癖開陳場であるのは当然として「こういう感情(考え、あるいは価値観)もあるよね」っていう悟り(?)みたいなものを開く(あるいはそれを肯定する)ための作品というか結果的にそうなったというか、そういう作品でもあるんです。ちょっと言い過ぎな気もしますが。そもそも、希望とか愛とか孤独とか執着とかって青二才が数年だけ考えてぽーんと答えが出る代物ではないはずです。現時点の自分なりの解はこれ、ということで。

 とはいえ、最初から悟りを開くことを目的としていたわけでも、テーマが決まっていたわけでもありません。「こういう関係性を表現したい」「こういう場面がやりたい」「こういう世界があったらいいな」という素朴な「好き」から始まっています。何らかの伝えたい主張があってメカブロを作ったというよりかは、自分の「好き」を形にしたいという思いを種としてこの作品は生まれました。というか創作物ってだいたいそれが動機なのではないでしょうか。主語デカい? すみません。

 メカブロが完結したとて、これで私が何かを作るということが最後になるわけではありません。次回作のアイデアもメカブロ続編のアイデアもどちらもあります。どちらを形にするかは分かりませんが(現時点だと前者に手をつけ始めています)、またいつか作品を公開しに戻って参ります。その時にまた皆様にお会いできたらそんな嬉しいことはありません。


 ここからは謝辞を。くどいくらいの私の話に付き合ってくださった、すずもちにとっての女神様を始めとするリアルの交友関係の方々、YouTubeやニコニコに突如投稿されたこの謎の一次創作動画群を一秒でも見てくださった方々、さらにいいねや高評価、ニコニ広告までしてくださった方々、X(Twitter)で労いのお言葉をくださった方々、誠にありがとうございました。あなたがたがいてくださったからすずもちは無事完走することができました。「誰かに認識されて初めて成り立つ世界」を支えていたのは、何も女神や神竜や番だけではありません。ここまでご視聴していただいたあなたも紛れもなく、セレブレストラとカーセルベレスの存続に関わっています。

 また、各素材製作者の皆様、各ソフトウェアの開発者様、その他Mechanical Bloody Roseを作るにあたってお力をお借りしたすべての方々にも改めてこの場で精一杯の感謝を述べたいと思います。ありがとうございました!


 それでは、また会う日まで。


2024.9.7 すずもち


ご感想やご質問などあればこちらにお願いします!

⇒ https://odaibako.net/u/1vx9orbbx5n023c2



 以下の文章はおまけです。「もっとメカブロのことが知りたい!」という方は読んでいってください。大して新情報はないです


 ここからは

①作品の内容について言い足りなかったこととか補足とか

②薔薇兵15人+αに対するコメント

③反省点とか(懺悔会場)

の順番でつらつらと述べていきます。

 ちょっとだけのつもりが書いてたら思いのほか長くなりました。多分一言で済むことをこねくり回して書いてるせい。完結後(あるいは完結直前)のテンションで書き殴っている部分も多いので多少の荒はお見逃しください。それではどうぞ。



①作品の内容について言い足りなかったこととか補足とか

・形式的(構造的?演出的?何て言えばいいんだろう?)なことあれこれ

 この作品のセリフや言い回しの意味、効果音やBGM等の演出の意図が皆様に100%伝わったわけではないと思います。そもそももとより100%伝わるとは思っておりませんし、100%の理解を強制するつもりも毛頭ありませんでした。1話からすずもちが全ての意味を解説するオーディオコメンタリー的な動画を作るわけにもいかないなので、とりあえずここでは一つ一つの要素は置いておいて全体的に意識したことを書いておきます。

 大きく言うなら「対照(対称?この場合どっちだ??)」「反復」「反転」ということを意識しています。対照なんて世界設定からしてセレブレストラ⇔カーセルベレスですしね。ちなみにこの二世界、地形も鏡合わせのようになっています。もともと神の庭にいたリゼットが空間の歪みに巻き込まれ、移動した先が神の宮だったのはそういう理由でもあったり。

 神の隷ふたりにもそれらの要素があります。というか一番対照的な関係が重視されているのが隷ズだと思います。例えば、竜の隷は基本的に人間社会に取り入り上の立場から舵取りして浄化のバランスを保つという方法で仕事してきたので、人間との接触機会がだいぶ多いんですよね。そのぶんいろんな感情を知っていたと思います。本当に理解できているかはさておき、演技の引き出しはかなりあるはず。それでも竜の隷にとっては感情なんて「人間と円滑に交流するためのツール」程度の認識でした。一方で人間と関わらず自分の手で直接化け物や毒花といった怪異を浄化してバランスをとっていた女神の隷は、ある時出会ったたった一人の人間に様々な本物の感情を与えられたって考えると対照的ですよね。隷関連でいえば、エリアスが「眠れ、我が隷」(7話)って言ったのに対してロガーナは「目覚めよ、我が隷」(22話)って言っています。これも対照要素ですかね?

 「反復」「反転」は、クレールが過去にクラリスに手を差し伸べられ「自分もこうなりたい」と思い最終的にヒイラに手を差し伸べる側になる、みたいな。ヴァルトルーデとノエルの関係もこれですね。かつて救われる側だったノエル、救ったヴァルトルーデ。それが時が経ち反転した構図である「救うノエルと救われるヴァルトルーデ」という形で反復されます。また、ユリースとクレールが初めて出会ったときは互いにすれ違うところで、クレールの方がユリースの方を振り返っていました。それが後々ではユリースが去るクレールを追いかける構図となっています。また、リオンとイリスのころはリオンが愛を伝える側でしたが、来世ユリクレのときはクレールから別れ際にキスしてるとかね。フェリシーとリーセロット、あの二人にも様々な反転(っていうか対照?)要素があります。あと、「赤薔薇になりたかったけど白薔薇になった」グラシアと「白薔薇になりたかったけど赤薔薇になった」ヴァルトルーデとか。奇しくもこの二人、髪色もそれっぽい。あとこれは誰にも指摘されないまま最終回を迎えたのですが、庭師二人の瞳の色、反転させてみると面白いかもしれませんね。

 絵だけじゃなくて音関連で「反転」要素を言うと、神の世界のBGMが片方の世界の逆再生になってるというのは分かりやすかったと思います。つまり女神の庭園で流れていたBGMは神竜の宮殿では逆再生したそれが流れているってことです。これは言わずもがな、この二つの世界(あるいは神々)が互いに対となる正反対の世界であることを示唆しています。もう一つ、ヒイラが話しているところでたまに流れているオルゴールっぽいようなBGM、逆再生するとOPのメロディーになります。OPが主人公の象徴(テーマ?)ならば裏主人公とも言うべき彼女にはこういうBGMが相応しいかと思いましてそういう工夫もしてみました。折角ならもっとBGMっぽく整えればよかったなぁと後悔もちょっぴりあります。

 OPと言えば1番と2番の歌詞は正反対っぽくなっています。OP曲のタイトルもfatalism(運命論・宿命論)を反転させただけの単語です。運命論を覆せ、的なノリでつけました。よく「なんて読むのコレ」って聞かれるのですがお好きに読んでください。ローマ字読みでミシラタフって読んでもいいし意訳でハンウンメイロン(反運命論)とかでもどうぞ。すずもちはミシラタフ派です。まぁだいたい「メカブロのOP曲」って言うことが多いかもしれませんが……。

 ここで述べたこと以外にも「対照」「反復」「反転」要素はあると思います。こじつければいくらでも増やせますし全部挙げてたらキリがないのでこれくらいにしておきます。お暇があれば一枚絵たちもそういった視点で見比べてみてください。


・テーマっぽいことについて その1(認識とか運命とか)

 メカブロは意図的に「如何様にでも解釈できるような表現」をいくつか入れたつもりです。顕著なのはもちろんラストですが、それ以外でも「この人どんな表情でこの台詞言っているんだろう」とか「この人どんなつもりでどんな声音でこんなこと言ったんだ」みたいなものをできるだけ入れたかったんです。何故かというと「あなたがそう思った世界があなたにとってのメカブロ世界である」という意味合いを込めたかったからです。だってセレブレストラとカーセルベレスは認識で存在が確定する世界ですから。「あなたの認識でメカブロ世界も変わりますよ、だからどうぞご自由に解釈して楽しんでくださいね」っていう。どうとでも取れる表現にはいずれも作者の思う解がありますが、それ以外の解釈は絶対認めない!ってスタンスではありません。まぁあまりにもトンデモ解を出されたら「そうはならんやろ」ってツッコミたくなるかもしれませんが、そんな答えはそうそうないでしょう。「なんかそういうのモヤモヤする……」「ただの投げっぱなしエンドじゃん!」という方もいらっしゃるかもしれませんが、あなたが思った通りの解釈で合っているのでそこまで気にしないでください。

 メカブロは「自分の認識で自分の世界はできている。運命(自分以外のすべてのもの)は状況を与えはするけれど、結局その与えられた状況をその人がどう捉えるかまでは与えない。だから自分の捉え方次第で世界は変わる」といったことをテーマの一つとして掲げてきました(少なくともそういった考え方がちょいちょい出てくる……はず)。もともと運命に抗え、的なイメージで作り始めたのですが別にそこまで彼ら彼女ら抗ってないような……まぁ物語的元凶たるヒイラはがっつり抗っていましたね。イリスもある意味、自分の運命を捻じ曲げて(都合よく解釈して)理想世界に生きていたわけですから彼女も運命に抗った者の一人であると言えるのではないでしょうか。クレールもクレールで「自分は孤独ではない」という気づきを得ることで自身の神の隷および番としての運命を受け入れたわけですし、これも一つの抗い方なんじゃないかと思います。ぶっ壊すだけが抵抗じゃない。柔よく剛を制せ。

 今書いていて思ったのですが、メカブロのテーマは運命にいかに抗うかというより運命をいかに受け流すか、と言った方がそれっぽいかもしれませんね。だってよくよく考えれば、神の隷に背負わされた「本質的に違う存在と共に永遠の繰り返しと孤独の中で生きなければならない」という運命は根本的には解決していないんです。番システムを壊すあるいは改変することもなく、人間と寿命を合わせることもなく、ただ番になる隷たちの認識が変わっただけ。かっこつけた盛大な諦めとも言えてしまうかもしれない。それでも本人たちが救われてる、今できる精一杯の答えがあれならばそれでいいんじゃないでしょうか。この先、この運命が覆る可能性はゼロと断定されているわけではありませんし(なんなら外世界が終焉を迎えれば神の隷もお役御免となって役目から解放されるということは明らかになっていますしね)。クレールが出した結論を、楽観的で精神論な綺麗事と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でもフィクションの中くらいは綺麗事が罷り通っていいじゃないの精神で勘弁してください。そもそも番の認識が存在を決定する世界です、ある意味これが最善の解決策なのかも。


・テーマっぽいことについて その2(希望とか隷同士の関係とか)

 テーマについてもういっちょ。人はパンのみにて生くるにあらずという言葉もありますが、やっぱ精神的な支えって大事だよね、っていうことも作中でちょこっと触れました。“一人の少女が様々な経験を経て成長し人々の希望になる”という物語を作っていく中で、大なり小なり何らかの生きる理由というか日々の楽しみというか、ささやかな希望って生きていく上で絶対に必要なんだろうなということを漠然と感じました。ロガーナも言っているようにそれは何か宗教を信仰することのみを指すのではなくて、もっと俗っぽくてもいい、これがあるから/これのために今日を頑張れるっていう、そういうものです。物とか事じゃなくて人でもいいと思います。

 作中で薔薇兵たちはそれぞれ様々な困難に直面しましたが、それらを解決することができたのは新たな希望を抱くことができたからなのではないでしょうか。それは誰かを愛したり信じたりする約束だったり、新しく見つけた目標だったりしますが、まぁざっくり希望って言ってもいいんじゃないでしょうか。さすがにこじつけすぎ? でも精神的な支えを得たという点においては共通していると思います。薔薇兵以外の例としてはヒイラが最後に折れたのも、クレールが「あなたは独りじゃない、だって私がいるでしょ?(≒私を支えにして)」ってことを言ってくれたからですもんね。

 上に関連してここからは隷同士の話でも。クレールは無事「誰か(=ここでは竜の隷)にとっての希望」になったわけですが、じゃあそれまで女神の隷が竜の隷にとって希望ではなかったかと問われればそれは間違いです。ずっとずっと竜の隷にとって女神の隷は希望でした。女神の隷がいるから頑張れたわけです(依存に近い歪なものでしたけど)。そして逆も然り。でもお互いそんなこと口に出したことはありませんでした。というか女神の隷の方はイリスの代まで「竜の隷がいるから自分も頑張れる」という気持ちについて無自覚だったと思います。でもイリスになってリオンと出会って感情の何たるかを学んだことで、竜の隷に対する感謝の念みたいなものを自覚できた。そしてそれまでの我が身を振り返ってどれだけ竜の隷が自分に対して気遣いをしてくれていたかをやっと理解できたわけですね。器を大事にしろとか、人間に関心を寄せろとか、そういうの。刺された後にヒイラに言った「ごめんなさい、ヒイラ」(23話)には字面以上の重い重い悔悟と感謝が込められていると思います。自分を愛してくれたあなたにこんな役を押し付けてしまったことは、あなたへの酷い裏切りに他ならない。そのことに対する「ごめんなさい」です。

 で、自らの希望と仰ぐ存在をその手で亡き者にした竜の隷側もただでは済みません。言うなれば対岸の火事ではなく隣室からの延焼、いや焼身による心中に近い。竜の隷が女神の隷に寄せる感情は自己愛に近い愛です。恋とか親しみとかそういう次元じゃない、もっともっと深く強いもの。相手はもはや自分自身の延長であるという次元に達しています(だからこそ手の内に入れてコントロールしたいという思いも生まれてくるのですが)。愛とはロガーナの言葉を借りるなら「“その為に生き、その為に死ねるほどの激烈な歪み”」(23話)、ヒイラの言葉を借りるなら「どうしても譲れない思いと、それを誰かに譲らせない力」(24話)です。だから竜の隷がもう二度と女神の隷を番に就かせない、と決意するのは当然の帰結でした。世界を壊しても、自分が壊れてもいい。あなたの為になら死ねるから、私が全てを引き受ける。イリスを手にかけた時点でヒイラは自分をも殺したつもりになっていたんじゃないでしょうか。もはや自分は死んでいるからこれ以上どんな痛みを受けたって問題ない、とか思っていても不思議ではありません。あなたの代役を務められるのは世界中で私だけ。感情を演じて分かったふりをしていた竜の隷が初めて真の意味で己のものとした感情は愛だったんですね。

 と、これだけ読めば「竜の隷は献身的だなぁ」とか思われるかもしれませんが、事はそう単純ではありません。竜の隷は女神の隷よりも感情理解においては優っているという自負がありました。それゆえにおかしくなってしまった女神の隷の姿を見て強く衝撃を受けたのではないでしょうか。言うまでもなく狂った相方を見るのは衝撃的ですが、それと同じくらい「自分よりも感情や人間にも関心のなかったはずの相方がその感情や人間のせいでおかしくなった=おかしくなれるほどそれらを理解したという領域に到達していた」という事実が衝撃的だったと思うんです。こいつはまずい。自分は女神の隷よりも常に上にいたはず。なのに女神の隷は自分を置いて先へ進んでしまった。いつまでもあなたは私に庇護されていればよかったのに──そういう感情を無意識のうちにでも抱いていてもおかしくないと思います。先程「竜の隷が女神の隷に寄せる感情は自己愛に近い愛」と述べましたが、その愛には相手を己の支配下に置いておいて安心したいという側面もあるのではないでしょうか。でも女神の隷はその範疇から逸脱してしまったんですね。だから押し込めたい、あなたは元の無知なあなたでいればいい、運命への抵抗を抜きにしてそんなパターナリスティックな欲望がヒイラのクレールに対する態度に見え隠れしている気もします。

 で、実際には(ヒイラの危惧通り)物事を捉える尺度が広いのはクレールの方だったと思います。ヒイラは高尚なことを考えているようでその実、まだ0か1かってくらいの機微しか理解できていなかったのでは。「女神の隷に辛い思いをさせない」という目的を実現するために彼女は「女神の隷を神の領域に関わらせない」という手段一択で動いていました。視野狭窄に陥っていたというか、他の手段なんて俎上にすら載せない。弊害上等!!の精神で道なき道を行く感じ。まぁ自分がヤバいことをしているという自覚と罪悪感が一切なかったわけではありませんがね。そこにクレールが現実とどうにか折り合いをつけて生きていく折衷案を提示しました。0(番にならないハッピーな運命)か1(番になる最悪な運命)か、じゃなくて0.5(番になってもそれなりに幸せに生きられる運命)のようなグラデーションのついた思考ができるという点において、より成熟しているのはクレールの方です。とはいえこの一件で竜の隷も多少はそういった考えができるようになったのではないでしょうか。

 そういえば隷の間での交代の合言葉である「また会う日まで」、あれいつから言ってるんでしょうね。自然発生的なものなのか、どっちかが言い始めたのか。個人的には竜の隷が言い出して「意味はあんまり分かってないけど竜の隷が言うなら正しいんだろう」と思った女神の隷が真似したことで習慣になった説を推します。女神の隷は合理を追求し我が道を行くタイプではあるものの竜の隷には全幅の信頼を寄せていましたから……こと人間に関することには。

 希望についての本題に戻る……前にもう一つだけ。クレールの掲げた「誰かにとっての希望になりたい」の「誰か」は結果的に結構いろんな人が当てはまりました。ヒイラは勿論、ユリースにとっての希望でもありますし、ヒイラを救える唯一の存在という意味においてはエリアスにとっての希望でもあったわけです。ロガーナにとっても世界を正常に戻すという意味での希望であり、言わずもがな全世界の人からすれば彼女は(”クレール・ベロム“という個人の存在は消滅したとしても)救世主という名の希望です。クレールがそんな「誰かにとっての希望」になることを目指したきっかけはクラリスに助けられたことですが、希望もクソもねぇよ!な世界観を持つ人物に影響されて希望になりたいと願う人物が育ったというのはなかなか面白いですよね。内に秘めた信条がどうあれ、結局は表に出たものを人は受け取るということでしょうか。そりゃそうか。クラリスの名誉のために弁解しておくと、彼女は「化け物に喰われる犠牲者を極力減らしたい(オブラートに包んだ意訳)」ということを信条として薔薇兵をやっています。現実に絶望したまま考えなしに化け物を狩っているわけではありません。そういうことしてたのはユリースの方。

 めちゃくちゃ脱線してしまったので本題に戻ります。生きていくには精神的支柱=希望が要るよねっていう話をしていました。いくら物理的に満たされていても、生きる意味や理由がなければその人の人生はとても辛いものなのではないでしょうか。なんかスピリチュアル方面に片足突っ込みかけていますが、要はいきがいだいじだねってことが言いたいだけです。昨今、所謂推し活が盛況なのも、やっぱみんな希望が欲しいからなんじゃないでしょうか。人の世に人の心に希望あれ(五七五)。まぁとにかくクレールちゃん、セレブレストラとカーセルベレスの希望の象徴としてこれからも頑張ってください。



②薔薇兵15人+αに対するコメント

 本当はこのコーナーは当初想定していなかったのですが、①を書いてたら書きたくなったので。全部終わって改めてそれぞれのキャラを振り返って作者がどう思っているかなどをコメントしていきたいと思います。100%作者の主観で語っているので「ほ~ん」程度に聞き流していただければ。気になるキャラだけ読むとかでも構いません。どこかしら矛盾してたら申し訳ない。

 順番は同期組→隊長組→中間組(他に呼び方思いつかなかった)→神々関係者。


・クレール

 主人公オブメカブロ。

 お疲れ様でした。見返すと脚本の都合でとりわけ初期は電波ちゃんだったかもしれない。ごめん。

 彼女には運命に翻弄されても必ず元の位置に戻ってこれる強さがあると思います。何度か自分を見失いかけるんだけど、周りの人の助けを借りつつも最後は自分の力で前に進んでいく。贔屓目が幾分か入っていますがやはり主人公たる器だと思います。愛を振りまく天性の光……はさすがに過言? イリスの頃には世界に絶望し、運命を呪って諦念の中で死んでいった彼女が、今度はクレールとして様々な人の愛に触れることで自分の運命を肯定し、むしろ自分自身が世界の希望になることを望めるようになった。これを成長と言わずして何と言うって話ですよ。

 そういえば家族に関する話が全然出てこなかったし、番になるか否かの葛藤の中で家族と離れ離れになることを心配している様子もなかったため「実は家族と不仲??そもそも家族いるの??」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。ちゃんと家族います。いますし普通に仲いいです。メカブロ本編の中ではユリース(リオン)やヒイラとの関係にフォーカスしていたため家族の存在感が薄めだっただけで、カメラの外では普通に家族のことも考えていたと思います。

 余談ですが、考えてみれば彼女は結局一人前の薔薇兵にはなれなかったんですね。訓練生で終わっちゃった。まぁでも、番も薔薇兵も世界の平和を保つのが目的だし似たようなもんだな!


・リゼット

 艱難辛苦のお嬢様。

 当初はクレールのライバルポジションになるはずだったという裏話があります。それがいつしかクレールの親友ポジションになっていました。「クレールさん……面白い子」とか妖艶に微笑んでいたリゼット様がいた世界線もあるってことですね。ちょっと見たい。それはさておきリゼットも結構運命に翻弄されて苦労してますよね。最たるものが兄テオバルトとの関係でしょう。出自は違えど戸籍上は家族。禁忌の恋だと自覚し、それでもなお傍にいられるだけで満足していたにも関わらずそれさえ叶わなくなってしまう。だがしかし奇跡的に、はたまたこれも因果か、再会の果てに思いのたけを伝えた後でやっと前を向くことができました。

 彼女は感情とか意見をはっきり外に出すことを抑えて生きてきた子って感じがします。ジェルヴェーズ家という看板を24時間背負っているわけですからそうもなろう……彼女の苦労は家族以外に同じ立場の人がいなかったということが大きいでしょう。だからこそノエル(同じく出自がいいとこの令嬢)とか304号室のメンバー(ただの同級生として接してくれる)とかクイーン(兄についての秘密を共有できる存在)とかには心を開いて接することができたんだと思います。


・クリスタ

 いろんな意味で現実的な子。

 全力は出さない。適度に手を抜いて、いい感じに毎日を乗り越えていく。生活の知恵というか何というか、生き方においては早熟な印象があります。ノリが良かったり、適度にツッコんでくれたりと友達にいたら楽しいタイプ。でも彼女の本質ってアイデンティティのなさとそれ故の自信のなさだと思うんです。手を抜くのは自分の真の実力が露呈するのが怖いからです。己をまだ直視できない。それは自分がどこに向かっていいか分かっていないから。確固たる目標もないのに、「一応要領はいい」というささいな自負すらなくなってしまったら何に依って自分を保てばいい? 彼女にとっての聞かれたくない質問ランキング上位には「将来何になりたい?」が絶対あるはず。ってか本編でもアンニェリカに言及されていましたね(20話)。

 図らずも棘のあるコメントになりかけていますが、こういう悩みって現実でもあるよなぁと思います。作者にも心当たりがあります。とっても親近感。彼女が出した答えは、未来なんてまだ分からないんだからとりあえず毎日を懸命に生きよう、目の前のことを頑張ろう、というもの。それが正しいかは作者にも分かりません。でもどこかで頑張った経験は後々役に立つと信じています。結果的に彼女は黄薔薇副隊長という称号を手にしましたね。


・グラシア

 姉御肌か年相応か?

 304の姉貴、という印象が強いです。が、ちゃんとフォーカスすれば年相応の一面もあるよなぁと思います。赤薔薇に憧れて薔薇兵を志望したのに白薔薇に配属になった。同室のクレールはそこまで覇気があるようにも思えない、落ちこぼれオーラを出しているふわふわ訓練生なのに赤薔薇に抜擢された。勿論クレールの努力を認めないわけではないけど、なんで自分は選ばれなかったんだろう?って嫉妬とか羨望とかそういう思いを抱いてしまう気持ちも分かります。そしてそんな気持ちを抱く自分への自己嫌悪も。根が本当に真面目な子なんだなぁって思います。彼女は親だったり弟妹だったり、今まで多くの人から頼られる側の人間だったから自分よりも他人を優先することに抵抗があまりなかったのでは? それが当然とも思っていた。で、薔薇兵になるために養成学校の門を叩き、対等な立場の人に囲まれて初めて「相手を押しのけても自分を大事にしたいと思う自分」の存在をはっきり自覚したのでしょう。自分の醜い部分に気づくのは彼女の中でもショックだったに違いありません。

 とまぁ、彼女はそんな自己嫌悪に陥りつつもフェリシーと話して実戦練習で気づきを得て、原点に立ち戻り、与えられた境遇を受け入れることができました。グラシアもメカブロのテーマ「認識が己の世界を作る」の立派な体現者です。惜しむらくは早々に抱える課題を解決しちゃったせいで後半あまり活躍させてあげられなかったかな……ということ。まぁこれは他の薔薇兵にも言えますが。とはいえ、クレールが挫折しかけたときに曖昧にせずはっきりと物申してくれたおかげでクレールも自分と向き合う必要性をより一層感じることができたんじゃないかと思います。


・ユリース

 ずっと生死の間で生きていた少年。

 意識不明の重体とかいう意味ではなく、なんか存在が薄い気がします。存在感ではなく存在が。運がいいから死んでないだけでいつ死んでもおかしくないっていう感じ。本人も恐らくそう思っている。彼、自分の命を全然大事にしないじゃないですか。家族を、居場所を奪われたことへの復讐という一点だけしか心の拠り所がないし、それがなくなったら彼はどうなっちゃうんでしょうっていうレベルで希望を持っていない。未来なんで眼中になくて過去しか見ていない。ずっと過去の呪縛を背負って生きてる。似たような動機で薔薇兵になったクラリスと違うのは居場所が根こそぎ奪われたか否か、です。クラリスの場合、両親は健在です。だから弟を喪った悲しみを共有できる人がいた。でも彼の場合は悲しみの共有者が誰もいません。孤児になった後で親戚に引き取られても、彼らは自分のことを厄介者か余所者としか見てくれません。死なない程度の世話はしてもらえたけど、生きるのが楽しいと思えるようなことはしてもらえなかった。そういうこともあってか、彼が持っている”希望”は「さしあたり死ねない理由」であって「生きていたい理由」じゃないんですよ。欲しいものもやりたいこともない、生きていなくても全然構わないけど、犬死するくらいなら化け物ぶっ殺させろ、っていう思想。思想が強い。

 でもそれは彼なりの防衛機制であると思います。本人も言っているように「守りたいものが生まれたら俺は復讐を遂げられなくなるって思ってたから」(25話)、ひたすら心に蓋をしていたんですね。そこにクレールという変な子がぬるりと入り込んできた。これは大事件です。影で生きて影で死のうと思っていた自分を日の当たる場所に引っ張り出そうとする輩。暗闇にいたのにいきなり光を見たら目を閉じたくなりますよね。それと似た感じ。ですがその光は彼が心の奥底では欲していたものでした。彼女と出会って初めて「死ねない理由」じゃなくて「生きていたい理由」、本当の意味での希望を抱くことができた。復讐だなんだに囚われていたけれど、彼の本質はリオンのころからあまり変わっていないと思います。もし不幸なく育っていたら彼は薔薇兵にはならなかったんじゃないかな。


・ヴァルトルーデ

 鋭敏だったり鈍感だったり。

 彼女は人の機微には敏感ですよね。逆に自分のことになるとなんか鈍感な気がします。仲間の様子が普段と違えばそれに気づくし、それとなく探りを入れて本人がどうしたいかを汲み取れる人。時には一歩踏み込むことだってある。さすが赤薔薇を率いる人物なだけあります。「会ううちに怖くなくなるのがヴァルトルーデ隊長、会うほど怖くなるのがクラリス副隊長」(21話)という言葉もむべなるかな。最初はおっかない人に見えるけど、その厳しさの裏面の優しさが徐々に分かってくるんでしょうね。

 ですが自分のことになると話は変わってきます。なぁヴァルトルーデ、あなた自分に向いてる矢印をちゃんと認識できていますか? すっごいシンプルに「自分はそれほどの好意を持たれる人間じゃない」って思ってるでしょ。人の命を救っておいて、人のことを惚れさせておいて、この態度。前者には「当然のことをしただけ」、後者には「何焦ってんだばーか」とか言っちゃう。先生との一件で誰かに期待したら傷つくのは自分、自分が愛されているなどという夢を見るな、という経験則があるからなんでしょうか。まぁそういう妙な謙虚さも彼女の彼女たる所以ですね。あなたは自分が思っているよりも素敵な人ですよ。


・ノエル

 うるさくて静かな少女。

 いや、ほんとうるさくて静かな人だと思うんですよノエルは。本音以外のことならいくらでもべらべら話すんですこの人。でも本音だけは全然言わない。黙ったまま、隠したまま、ただただ沈黙を保つ。たまに零すときも本音以外のお喋りの中に混ぜるから結果的に一瞬で通り過ぎてしまい、言ってないも同然になるし、本人もそれを狙っている。不器用な御方ですね。彼女がこんな性格になったのは生い立ちが大きく関わっていると思います。過去に強烈な人間不信に陥ったために「目の前の人間は自分が本音を開示するに値する人間か?」っていう値踏みをしないと気が済まなくなったのでしょう。ちなみにヴァルトルーデと出会う前のノエルはただの静かな少女です。余計なお話もしないけど本音もあまり語りません。

 で、ヴァルトルーデという信用するに値する人間が現れた後で彼女はどうなったかと言いますと、うるさくなりました。そんな簡単に性格は変えられません。「こいつもいつか自分を裏切るんじゃないか」「本当は”友人”を演じているだけなのでは」という根底の不信感はそうそう消えない。だから万が一そうなっても自分が受けるダメージが最小になるように振る舞うようになりました。話したいけれど本音は言わない。どうでもいいことばかりを語って、もしも裏切られても「まぁこっちもそんなに信用してなかったしな!」で済むように予防線張ってるわけですね。誰かこの子を救ってやってくれ。最後の最後で彼女はヴァルトルーデのために命を使いましたが、己の命を懸けても惜しくないほど信頼できた人間がいたことで彼女はもう救われているのかもしれません。


・カタリーナ

 普通って何だ?

 普通って何でしょうね。キャラクターを確立するという意味での人物造形が難しかったキャラランキング、カタリーナはわりとトップレベルです。隊長さんたち他4人がだいぶ味付け濃いめなので1人くらい穏やかな子がいたっていいだろう!ということで生まれたカタリーナでしたが……「普通の子」って最もとらえどころがないタイプのコンセプトだなって感じました。常識人としてツッコんだり、かと思えばたまには天然な一面を覗かせたり、でもやっぱり黄薔薇の隊長として信念をしっかり持っていたり。カタリーナはこういう子です!って一言で表せないのも、特徴がないというよりも様々な面を持っているから、と言えるかもしれません。

 カタリーナの偉いところは才能とかカリスマ性とか、そういうものがないと自嘲しつつもそれらがないことに腐らず隊長という責務をちゃんと果たしているところだと思います。自嘲するほどそれらがないか?って言いたくなりますが。黄薔薇という場所への偏見や不満を自覚し、時にそれをほぼダイレクトで浴びせられながらも、その上で「どこが上とか下とか関係ねぇ、自分たちの目的は薔薇兵全員でセレブレストラを守ることだよそれだけは忘れんじゃねーぞ(意訳)」と堂々と言える人が平凡とか普通とかの枠に収まっていいものか。


・フェリシー

 神様になりたかった普通の女の子。

 メンヘラっぽいねって視聴者さんからよく言われた。でもただのメンヘラじゃねぇぞ。幼いころから女神様の看板背負わされていた子です。人間はそう簡単に神様にはなれません。凡夫が神様であらねばなんて十数年も思ってると病むのも致し方なしと思います。

 彼女は手段と目的(女神様へのプロセス?)が逆転してしまったのが拗らせるきっかけでした。「困っている人を助けていた→女神様のようだと言われるようになった」というのが本来の順序なら、フェリシーは「他者に尽くせる女神様になりたい(ならなきゃ)→だから困っているあの子を助ける」という、最初から神様になることが目的として存在していて、他者の救済はその手段に過ぎなかったのです。じゃあその他者が自分の干渉なしに勝手に救われてしまったら? 他に救済できる人を探しに行かない限り、女神様になれる道が閉ざされたことになります。手段を失っちゃったことになるからね。で、結果的にそうなりかけた。リーセロットはミラベルを始めとする黒薔薇の仲間によって、自分の居場所はフェリシーとの閉ざされた二人の世界だけではないということに気づき始めます。ヤバい! その子はわたしが救う予定なのになんか勝手に解決しかけてる! じゃあその子はほっといて別の人探しに行けば?と思われるかもしれませんが、十年以上一緒に過ごしていればもう二人の世界は完全に完成しています。フェリシーも今更別の困っている子を探しに行こうって気にはならなかったんじゃなかろうか。

 いろいろありつつも最終的(?)に彼女はシスターとして俗世と関わりつつも少し異なる立場で生きる身になりました。あんなに親友と離れ離れになることに怯えていた彼女がその決断をしたと思うと、感慨深いものがあります。リーセロットに「わたし、シスターなりたい」って打ち明けたときどんな反応をされたんでしょうか。それは次項にて。


・リーセロット

 信者から親友へ。

 フェリシーの神性をずーっと担保していたのがリーセロットです。リーセロットがいたからフェリシーは女神様でいられたんですね。でもそんな関係、いつまでも続くわけないってリーセロットは結構早くから気づいていたと思います。でも何があろうとフェリシーが自分の命の恩人であることは揺るがない事実です。だから彼女を裏切るわけにもいかないし、リーセロット自身もフェリシーのことが好きですから「まぁ今はまだこのままでいいか」と判断を先延ばしにしていた。だけど限界が来てしまって……本編に至る、って感じです。たまたま崇められる家に生まれた少女と、たまたま蔑まれる家に生まれた少女。フェリシーとリーセロットの立場の違いは極論、運の良し悪しだけですよね。

 本編後、フェリシーにシスターになると告げられた時の彼女はどんなことを思ったのでしょうか。現代日本でなら一番の親友に「出家します」って言われるのと似たような感じでしょう。もしシスターになってもフェリシーは死ぬわけじゃないし、会えなくなるわけじゃありません。でもこれまでと同じように接することもしにくくなる。彼女は女神様と信仰に一生を捧げる存在になるわけですから。いろいろ思うことはあったと思いますが、リーセロットのことですから「あなたが決めた道なら私は応援する」って背中を押したんでしょうね。過去がどうあれ、この二人が歩む道に女神様の加護があらんことを。

 

・ウォルト

 薔薇兵の気風の体現者。

 なんて書くと「そらまぁ……赤薔薇の隊長だけど……?」という反応をされそうですね。が、己の実力で兄への劣等感を拭うことができたんですから紛れもなく実力主義の薔薇兵らしいキャラだと思っています。余談、彼に限らないけど強いとされているキャラの強さをあんまり上手く描写できなかったかもという反省はあります。まぁ反省はさておき、ウォルトは生まれてからずっと文武両道の優秀な兄と比較され続けてきました。両親も周囲の人も、兄のことを褒めそやすばかり。「それに比べて弟は」と言われることこそほとんどありませんでしたが、彼が注目されることもあまりありませんでした。愛されなかったわけではなく、より愛される存在が身近にいたという話。兄が薔薇兵になったことで彼も対抗心を燃やして薔薇兵になる道を選びます。兄は赤薔薇の副隊長まで上り詰めたところで時間切れになってしまいました。じゃあ自分が赤薔薇の隊長になれたなら、自分に兄より優れた部分があるということの証明になる。そういう単純な敵愾心から始まった薔薇兵生活でしたが、努力の甲斐あってか彼は自身の力で隊長の座を勝ち取りました。おめでとう。彼自身も少し安堵できたのではないでしょうか。今まで兄のことを毛嫌いしていたので今更素直に仲良くするのも気まずくなってしまったようですが、まぁ今後時間をかけて自然に氷解していくと思います。ウォルトもルッツも、どちらももう大人ですからね。


・クラリス

 死んでも生きてやる。

 穏やかな仮面の裏の苛烈な本性。そういう子だいすき。とはいえ彼女も常に鬼になってるわけではありません。彼女はちょっぴり人より戦うのが得意なだけの、ごく普通の女の子です。だからクレール相手に恋話をしたり、同僚と遊びに出かけたりもします。彼女が日常を満喫している姿を想像すると和やかな気分になるとともに複雑な気持ちも少し感じます。ごく普通の女の子のままではいられなかった現実が影のように常に彼女の背後にあるような気がして……。

 クレールが自分に憧れていることを知り「わたしみたいになろうとするのは止めた方がいい。……多分、あなたが思っているよりわたしは綺麗な薔薇兵じゃないわ。」(2話)と止めた彼女ですが、クラリスってそんな綺麗じゃない薔薇兵ですかね? 弟の死に対してこの世界に化け物がいる以上仕方ないことだと泣き寝入りするのではなく、薔薇兵の過失に原因があったことを突き止め、なおかつそんなことが二度と起きないように自分が薔薇兵になってやるよと立ち上がった彼女。復讐心が動機であるためにクレールにはそのようなことを言ったのでしょうが、彼女は非常に高潔な精神を持つ人だとも言えるのではないでしょうか。ノエルの死を知ってショックを受けているリゼットに「泣いてる暇あったら戦え(意訳)」と発破をかける筋金入りの薔薇兵ですが、なんだかんだクレールのことを気にかけてあげていますし根はやはり面倒見の良いお姉さんなんでしょうね。

 余談ですが「クレールが12歳のときってクラリス16歳だからまだ訓練生じゃな~い?」というご指摘をされそうなのでお答えしておきます。季節的に冬、実質的に正規兵と同等と見なされる3年へ進級する直前の時期でしたし、実力者の彼女ですから早々にスカウトされて人数不足のときは後方支援として実戦に投入されていたんじゃないでしょうか。青田買いというか。で、たまたまベロム家近辺にいたので彼女が対応した、って感じだと思います。そういうことにしないと辻褄合わなくなっちゃうので


・アンニェリカ

 夢想家な現実主義者。

 常に己の世界で奔放に生きている。世間体なんて知らねぇ!……という風に見えるけれど実は周囲の目を気にするあまり殻に閉じこもってる子。アンニェリカはそんな子ですね。一見ぶっ飛んだ自由人かと思いきや、彼女のその振る舞いは周りに配慮しまくった結果なんです。アンニェリカは生来の天才発明家です。だから常人はその発想や考えていることが簡単には理解できない。彼女の両親も彼女のことを理解することを諦めてしまった。彼女自身も人から理解されるのを諦めた。「傷つく覚悟もなく勝手に舞台を降りた」(20話)わけです。端から期待などしなければ、裏切られることもない。愛されることもないけど。「捨てられるものは捨てて」「下りられるところまで下りてきた」(20話)、それが彼女なりの生存戦略でした。自由人として振る舞うことで、「あなたの理解なんて要りません、私はこんな変な奴だから近づきたいなら覚悟してかかってこいよ」って防御壁を作っていました。

 そんな芸当ができたのは、既に自分の才能を認めて褒めてくれる人が傍にいたからです。それがロドニー。彼さえいれば他には何も要らない、実際それに近かったと思います。彼女が彼を旦那様と呼んでいたのは親しみからもあると思いますが牽制目的でもあったのではないでしょうか。そんなことしなくても彼はあなたから離れようなんて微塵も思ってなかったよ。


・ロドニー

 現実主義な夢想家。

 銭ゲバが夢想家か?と思われるかもしれませんが、普通に考えてみてください。小さい頃に惚れて以来中学生くらいの時まで一緒に過ごした女の子のために単独上京してせっせとお金貯めて故郷に錦を飾って帰ってきて想いを伝えようという計画を立てて実際に実行する人間がこの世に何人いるかって話ですよ。「一途」の二文字で済むのかコレ。見方によっちゃかなり自分勝手な所業です。女の子の事情ガン無視ですから。お前それ帰郷したら既に女の子が別の誰かと一緒になってたらどうするつもりだったんだよ。逆に女の子も上京先で彼が誰かとくっつく可能性を考慮しなかったのか。でもそうならないっていう確信めいた何かが彼(と女の子)にはあったんでしょう。地元を離れる時点で両片思い状態だったことは容易に想像できます。まぁ結局女の子もついてきたんですが。

 計算が狂ったのは途中で貯金を使わざるを得ない状況になったことくらいでしょうか。自暴自棄になってた時、口では「こんな奴なんてさっさと捨てて、君は君の運命の人を見つけてほしい」(21話)とか言ってたけど本心はどうだったんだろうなぁ。女の子の幸せを願おうという気持ちは確かにあったとは思いますが、それはめちゃくちゃ心を殺して奥深くにしまい込んでいたからそんなこと言えたのであって本心は様々な感情が渦巻いて直視できないくらい酷い状態になっていたと思います。女の子もそれが分かっていたんでしょうね。結局この二人は互いに隠し事をしたって無駄なのでしょう。彼は淡々と日々を過ごしているように見えて頭の中ではずっと夢を描いていたんですかね。その夢叶ってよかったね。


・ミラベル

 支柱になりたい一本柱。

 リーセロットにベタ惚れして彼女の右腕になりたがっている子。彼女は自分のことを支柱だと思っているけれど、実際には一人で立っていても遜色ない芯のある一本柱だと思います。「よく見かける薔薇兵の人みたいにかっこよくなりたい」「自分を変えたい」という思い一本で窓辺の文学少女から剣舞う修羅の武者へ転向できる子ですよ。お強い。劇中でおそらく困難らしい困難にぶち当たることはなく、むしろ誰かの背中を押す役割が多かったように思います。そもそもの登場回数が少ない? その件につきましては作者も自覚してます。ごめん。閑話休題、彼女は年上かつ上司のリーセロットにも物怖じしません。塩対応されても好意100%の解釈をしちゃう程よい楽天家。とはいえ基本的には色眼鏡で物事を見ず、自分が直接見聞きして感じたことをとても大切にするタイプですよね。そういう意味では自分の中の価値基準というか評価基準をしっかり持っているのでしょう。健気な頑張り屋さんの一面だけじゃなくて、内なる自分を確立している大人っぽい一面もあるキャラ。そんなふうに思います。


・ロガーナ

 良く悪くも快の神。

 初期は頑張って小難しいお言葉を使ってたけどそのうち普通に喋ってましたね。作者が力尽きました。

 ロガーナはクレールの理解者、指導者的な立ち位置に終始いました。高圧的な物言いもしますしいろいろ訳知り顔で話しますし、かと思えば隠し事をしてもいる。そんな雰囲気だったので分を弁えた立派な女神様……かと思いきや案外そうでもない。バリバリ私情を挟む。作者的にはそういう公私混同具合もある意味ロガーナの魅力だと思っています。クレールのため、と言いつつも自分が幸せなひと時を享受するためにヒイラの横暴にある程度目をつぶっていたり、エリアスにそれをせっつかれるまで動かなかったり。でも彼女の気持ちも分らんでもないんですよ。今までよそよそしく他人行儀でドライだった従者が眠りから覚めた後は感情豊かになり、自分に懐いて頼りにしてくれるようになった。そんな従者が可愛くって堪らない。ただし前世のことを思い出したら再びドライな性格に戻ってしまうかもしれない。だとしたら、多少同僚とその従者に迷惑をかけても今の快を維持したい。彼ら的にも現状維持がお望みっぽいしwin-winじゃない? そう思っちゃうの、ちょっと分かる。というか神なんだから多少専横的なくらいがちょうどいいのかも。でもそれが長い目で見ればダメなことっていう自覚も同時に抱いていたとは思います。神として超越的に振る舞うのが正解だけど、主人としては従者を大事にしたい。改めて思うと、神様もかなり感情に振り回されていますね。


・エリアス

 絆され屋。

 畏怖の神っぽいエリアス:ヒイラに振り回されていたエリアス=2:8くらいな印象。ヒイラに甘すぎるんですよこの神は。というか神様はどっちも自分の従者には甘々だってことを覚えておいてください。テストには出ません。「俺は誰よりも何よりも大切な存在の願いが自分の持つ力を使うことでしか叶わないと知った時に無下にできるほど 冷酷な神でいられなかった」(7話)──大切な人の望みが自分しかできない何かで達成される、だけどそれは大切な人に耐えがたい苦痛を与えることにもなる。そうなったら皆さんはどうしますか? それでも大切な人の意志を尊重して叶える手助けをするのか、はたまたきっぱり断ってその人を苦痛から遠ざけるのか。難しい選択です。彼は前者を選択した後であまりにも影響がデカすぎたので仕方なく後者に転向したというパターンですね。それが正解だったか否かは……何とも言えません。たとえさっさとヒイラを眠らせて番を交代させていたとしても、クレールが前世のことを受け入れることができるくらいの精神的余裕がなければイリスの人格が再登場して世界を壊していたかもしれませんし、ヒイラを止めなければ緩やかに世界がおかしくなっていった可能性が高いです。どのみち詰み。そう考えればあれが最適解なのかも……?? どうでもいいことですが竜の血ってどんな味なんだろって今ふと思いました。多分美味しくはない。というか本来飲むものではない。そんなものをガバガバ摂取してたヒイラは豪胆すぎますね。

 余談。ヒイラは「ヒイラ」っていうちょっと和風っぽさもあるような名前なのにエリアスは完全に西洋風の名前ですよね。これはもともと、構想段階では彼の立ち位置が完全に女神ロガーナの眷属だったからです。女神様の命令で下界に降りた彼が薔薇兵の前でフィジカルのみで化け物を蹴散らして薔薇兵ビビらせるシーンとか入れようかな~とか初期の初期に考えてた。カーセルベレスの存在を思いつきロガーナと対等な神格になり、ヒイラに合わせて名前変える?ということもちらっと思ったのですが結局「でももうこれでしっくりきちゃったからなぁ」と思ったため、そのままにしておいたというわけです。ちなみにメカブロの登場人物は基本的に名前に元ネタとかありません。欧羅巴人名録様の「適当に命名」機能を使わせていただき、完全に音の響きで「この子はこの名前っぽい」という理由で命名していきました。庭師二人とヒイラとロガーナは作者が考えて命名しました。


・ヒイラ

 結果的に世界を救ったけど破滅させかけもした女。全ての始まり③。

 ヒイラは誰よりも卑屈で誰よりも傲慢な子だと思います。表向きは神々や人間に敬意を持って丁寧に接しているんだけど、本心では見下している。ザ・慇懃無礼。彼女にとって自分と対等なのは女神の隷だけです。それ以外の存在は自分たち(番)がいなきゃ存在すらできない半端もの。この世界で真の意味で実在するのは自分と女神の隷だけ。そういう思想を持っているのが彼女です。まぁ女神の隷に対しても対等というか庇護対象と見ていた節がありますが。つまり彼女の中で世界で一番偉い存在は自分です。人間は勿論、神々さえ奥の手(認識改変、ただし世界のどっかがおかしくなる)を使えば意のままにならないということはない。天下三不如意なんてレベルじゃないです。天下零不如意です。恐ろしいねこの子。実際には外世界の総意識(=運命)と女神の隷だけは奥の手を使っても制御できないんですがね。だって前者は上位存在、後者は番が意のままにできるシステムの外の存在なので。

 余談ですが、彼女は人間を愛したことがあります。数代前の竜の隷のころの彼女が、ですが。でも結局、当時の彼女(彼)は“愛”という感情を完全には理解できなかった。そして時が経ち、転生した当時の恋人を見つけたとき、その少女は自分と一緒にいたときよりも幸せそうな顔をしていた。そこで竜の隷は「自分は人間とは分かり合えない」と人を愛することを諦めました。竜の隷は初めから人間を見下していたわけではありません。数万年歩み寄る努力をしてもなお、どうしても壁を越えられなかった。その壁は努力で何とかなるものではなく、世界のシステムが作り出した絶対的なもの。竜の隷はそのことに数万年かけて気づいたんです。だから最終的には上記のような思想に行き着いたわけですね。あれ、じゃあなんで女神の隷はリオンを愛することができたんでしょうか? まぁ余談はここまでにしておきます。

 彼女は女神の隷を守りたいという一心で様々な好き勝手をしていましたが、最後の最後で守るべき存在だった女神の隷に刃を向けました。でもそれは殺すつもりではなく、逆に殺してもらうため。かつて自分が女神の隷を殺したことで消えない深い深い傷を負ったように、女神の隷に自分を殺してもらって彼女に深い深い傷をつけたかった。そうすれば女神の隷の中に自分という存在が永遠に刻まれることになるから。思うに、ヒイラ(竜の隷)には寸分違わず女神の隷と同化して二人で一つの均質な存在になりたいという欲望があるのかもしれませんね。「一緒にいたい」って次元ではなく、「一緒に溶け合いたい」って次元。それゆえ唯一の理解者には鏡合わせの如く自分と同じ目に遭ってもらわないと困るのでしょう。自分だけ痛いのは不平等です。殺し殺され互いの血を与え合い、相手の心を自分の血で埋めてひとつになる。傷も痛みもぜ ー ん ぶ お揃い。あなたの中に私がいて、私の中にあなたがいる。どこか倒錯的な香りさえしますが、それこそがヒイラの願いの究極形なのではないでしょうか。孤独を極めたものの果ての願望、という感じがします。そうでもしないと晴れない孤独って相当だなぁ。

 26話ラストで真に誰かを愛するとはどのようなことかを悟った彼女ですが、果たして次に転生した後の彼女は人間や神々に対してどう接するのでしょうか。気になります。26話ラストついでに……臨終の際にエリアスに形見を預けたのは、やっぱり自分がどうなってしまうか分からないという不安があったからでしょうね。ここまで好き放題暴れてしまったからには、運命は自分を切り捨てて新たな竜の隷を生み出すかもしれない。万が一そうなっても、せめて女神の隷と主たるエリアスに覚えていてもらえれば気休めにはなる。永劫の孤独も多少は癒せる。自分が生きた証を、自分が孤独ではなかったという証を、どうしても形にしてこの世に遺しておきたかったのだと思います。彼女はずっと寂しかったんですね。


・イリス

 結果的に世界を破滅させかけたけど救いもした女。全ての始まり①。

 ヒイラの影に隠れてるけど、イリスも相当ドロドロを抱えていた子なんじゃないかなぁと思います。本人が感情に無頓着なゴリゴリの合理主義者っぽいので気づいていないだけで。彼女は役目を果たす上で、その過程はほとんど気にしません。たとえ人間にどんな酷いことをされても、彼女が見ているのはそんな俗世よりももっと崇高な次元。世界の均衡を保つ、ただそれが達成できさえすれば他のことはどうだっていいんです。いやどうだってよかったんです。感情を知るまでは。

 感情を知った、というか理解してしまった彼女はさぁ大変。リオンから受け取る感情を理解するのみならず、これまで自分に浴びせられてきた様々な感情をも理解してしまいました。自分に向けられた賛美も敬意も、自分に投げつられた怨嗟も嫌忌も。人間の綺麗なところ、美しいところを理解したと同時に人間の汚いところ、嫌なところも理解してしまった。「あぁ、自分は多くの人の力になれたのか」と思うと同時に、ちらりと「自分はこんな汚い人間もいる世界を守らなければならないのか」とも思ってしまったことは想像に難くありません。それでも彼女は世界のために生きなければなりません。それが外世界が、運命が彼女に与えた役割ですから。だから我慢して、そんな感情見なかったふりして蓋をして頑張っていた。心の支え、彼女にとっての希望たるリオンもいましたし。

 だけどリオンを喪っていよいよダメになってしまいました。どれだけ世界に尽くせど「愛しい人と共に生きて、共に死ぬだけのことすらこの世界は許してくれない」(23話)。散々働かせておいてお給料ゼロ。嫌にもなります。希望のなくなった世界に彼女が生きる意味はありません。守る意味もありません。だから壊そうって軽々しく言えたわけです。譬えて言うなら賃金ゼロ円(むしろマイナス)でこき使われてもう限界だから会社爆破しようよ、っていう感じ。しかも爆破しても彼女を咎める人も法もありません。失われるのは彼女を蔑ろにしてタダでこき使ってきた会社の人間の命だけ。これはやるしかない。「ここを壊して私たちにこんな役目を押し付けた外の奴らの世界まで 滅茶苦茶にしてやろう」(23話)という発言からはいかにイリスが浄化世界にも外世界(運命)にも怨嗟を持っていたかが伺えます。でもその爆破計画はヒイラによって阻止されます。「イリスをどうにかして救いたい」という気持ちよりも「世界の均衡を守れ」という神の隷としてその魂に原初より刻み込まれた役割意識がヒイラを突き動かしたのでしょう。実際あと一秒でも遅れてたらイリスは恐らく世界を滅茶苦茶にしてました。人々の希望になるはずだった彼女がこんなことになっちゃうの、本当に可哀そうです。「ひとりは嫌だよ」(23話)、この痛切な一言に込められた絶望は如何ほどなのか、想像しただけでもやるせないです。番システムの都合上、「私がずっと一緒にいてあげるよ」ってヒイラが言えないのも悲しい。彼(女)らが同時に存在できるのは一瞬ですから。でも、違うんですよね。もしそれができても、リオンの死によって空いた穴はリオンでしか埋まらないのです。埋まらない穴を「穴なんて空いてませんけど?」って無視したらああなっちゃった。


・リオン

 結果的に世界を破滅させかけたけど救いもした男。全ての始まり②。

 イリスが彼と出会った瞬間から運命はなるべくしてああなったんだと思います。これはどこかで言ったかもしれませんが、彼も密かに孤独の共有者を欲していたのではないかと思うんです。親の代までは領主に寵を受け、彼にも順風満帆な人生が約束されていました。が、横槍が入ったことで華やかな生活とは無縁の領地の片隅の森の小屋に追いやられてしまった。父も母も既にいない。虎視眈々と中央へ戻る機会を伺ってはいるものの、そんなチャンスはやってこない。訪れる友人知人も滅多にいない。その閉塞感はただならぬものがあったでしょう。幼いころに華やかな世界を知ってしまっていたことがそれに追い打ちをかけます。そんなふうに現実に打ちひしがれていたところにイリスの登場です。常識がとことん通じない変な人。というか人ですらないっぽい。でも超強いし研究すればワンチャン出世街道に戻れるかもしれない。当初のリオンにとってイリスは(乱暴な言い方をするなら)己の野望を実現するための手段に過ぎませんでした。

 しかし(単純接触効果というと身も蓋もありませんが)、それなりに一緒に過ごしていると互いに情も湧いてきました。リオンもイリスも、お互い孤独を抱えています。リオンには話し相手が、イリスには帰るべき場所がない。上手い具合にお互いの歯車が噛み合ったわけですね。だから「もしもリオンが順風満帆な人生を送っていて、その上でイリスと出会った場合に彼はイリスを選んだか」と問われれば必ずしも「はい」とは答えられません。人と人との出会いってそういうものではないでしょうか。全ての人の人となりを知った上で「この人と友人になる、恋人になる」とカタログの商品のように選ぶことは不可能ですよね。たまたま近くに住んでいたとか、たまたま同じ学校にいたとか、そういう偶然が作用するのが人間関係だと思います。そしてそういう巡り合わせを運命と呼ぶのであれば、リオンとイリスの出会いはまさしく運命に導かれたものです。

 そんなこんなで共に過ごすうちに互いを尊敬する気持ちが芽生え、ついに彼は神様の使者を妻とする選択をしました。現実にある異類婚姻譚は必ず破局で終わるそうですが、人と人以外には超えてはならない境界があるのでしょう。それは彼らとて例外ではありませんでした。再会の約束をし、イリスを独り残して逝く彼の心境は如何なるものだったのでしょうか。彼がイリスに誓った再会の約束は彼女への最後の贈り物です。彼も孤独の辛さを知っていますから、自分が死んで再び孤独になる彼女へなんとかして「君は独りじゃない」ということを伝えたかった、言うなればイリスの希望になりたかったのではないか。彼にはイリスが自身の死を受け入れない未来が見えていたのでしょうか。さすがにそれは想定外だったと思います……。


・総評

 予防線張ってたり壁作ってたり心にストッパーかけてるキャラ多くね? メカブロキャラは防御タイプ。



③反省点とか

 完結した今、メカブロ全体を振り返って感じている反省点を書き連ねる懺悔コーナー。後の自分と次の創作のためにも言語化してここに掲げておきます。


・長すぎた

 なんかもうこれに尽きる気がする。おまけ文章の長さもこのことを象徴しているようです。やりたいこと詰めすぎたなぁ感はあります。もうちょっとどうにかできたと思う。全部見ると9時間弱あります。長い……いや二桁時間いってないから短いのか……? でもアニメはおろか紙芝居ほど変わるわけでもないほぼ静止画の連続が1本あたり20分超だしやっぱ長いよ。やはり尺配分って考えるの大変な気がします。プロット練ってても実際に作っている間にめっちゃいいアイデア浮かんできてそちらに路線変更したりするので……世の中の脚本家さんすごい。今作でだいたい何文字で何分になるのかというデータは得られたので次回作はそれを参考に真面目に台本作りますかね……。

 あと、完全に会話劇でごり押ししたけど普通のノベルゲームって地の文もありますよね。次回作は地の文もちゃんと入れてみようかなとかも思っています。地の文を入れる発想がなかったせいでだいぶわざとらしい状況説明台詞とか入れちゃった気がする。それと画面に動きがないのもあれなんで、主要キャラくらいなら立ち絵の差分で表情だけじゃなくてポーズも変更できるようにしてもいいかも。


・死に設定、矛盾、詰めの甘さ

 せっかく設定作ったのに全ての設定を十二分に活かせたかと言われればそうじゃないよなって気がします。奥の間と扉の関係とかね。あと矛盾してるじゃん、みたいな違和感を覚えたところもあります。リゼットがユリースのお墓参りを目撃したことがあるくせに、後日「この人も誰かを亡くしたことがあるのか?」って思ってるところとかね。いやあなた見てたじゃない!っていう。他にも探せばありそう。探さないで。


・画力とかセンスとかそういう類のもの

 今見返すと「ここもっとこういう感じにした方がかっこいいじゃん!」「ここの絵歪んでるじゃん!」ってところがちらほら……OPとか顕著です。立ち絵も全部描き直したいくらい。これはもう精進するしかないです。まぁ、当時の自分は精一杯作っていたのでよしとしましょう。これからの自分に乞うご期待。あとローズギア、もっとちゃんとメカメカしいデザインすればよかった。それこそザ・ロボットアームな感じで。でもそうすると作画コストが跳ね上がるというトレードオフ……。めっちゃ余談ですが、現実でも装着者が思った通りに動く第三第四の腕は実際に開発されているみたいです。すごい。


・投稿間隔

 動画投稿を生業とする人間ではないので常に何か(本業)をやりながら動画を作っていたのですが、やはり作業スピードが遅いため投稿間隔が結構空いてしまったなぁと反省しています。だいたい一枚絵のせい。でも毎週投稿とかやってたら本業の方に支障が出ていたと思うので仕方ないか……って感じです。毎話待っててくださった方、本当にありがとうございました。


・ボイス問題

 これは反省点というか今後の検討点ですね。26話で部分的にボイスをつけてみましたが、それで思ったのが「やっぱ声あるといいなぁ」ってことです。さすがに30人も登場人物がいると全員にぴったり合った声(合成音声・声優さん問わず)を用意してフルボイス化というのはいろいろな意味で難しいのですが、要所要所で喋るくらいはもっと早くからやってみてもよかったかもと思ったりしました。手軽に扱える合成音声と言えばゆっくりボイスが挙げられますが、以前試しにゆっくりボイスをつけてみたところ、シリアスな場面になると違和感がすごかったのでそれで即解決というわけにもいかなさそうです。もう少しあれこれ調べてみていいやり方を見つけていきたいです。立ち絵や動画は自分で作れてもさすがに声は自給自足できませんからね……。



 おまけは以上になります。ここまで全文読んでいただいた方へ、本当にありがとうございました!


 

すずもちの蔵

すずもちの蔵へようこそお越しくださいました。 すずもちが作ったあれこれを置いておいたりつらつら語ったりします。

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